襦袢の純白の衿との間に挟んだ半衿の茜色をアクセントに。
紅に橙、紫と。
肩から始まる濃色が徐々に滲んで、
長い袖はたもとの半ばで折り返してのまた濃くなるよう、
濃淡のグラデーションが花霞を思わせ、何とも華やか。
腰高に絞った袴は濃紺で揃えているところがまた、
各々個性豊かな彼女らであることを映えさせていて。
まるで一足早い春の色彩が花開き、
瑞々しい少女らにそれぞれまとわれての伸び伸びと、
大窓からの陽を浴びてほっこりと頬笑んでいるようだった。
「…何だ、あの一角。」
「どこの謝恩会帰りの短大生だよ。」
「いや、このシーズンだったら新成人とか。」
「新成人、かなぁ……。」
何たって初春。
社会人だったなら“仕事始め”を迎えているものの、
そこまでの“お姉様”には到底見えない、
飛びっきりの若々しさは無視出来ぬ。
それぞれに金髪だの赤毛だのというイマドキの髪色をしているが、
それでも蓮っ葉な印象がしないのは、
屈託のない所作にさりげない品があって、
笑顔も笑い声も、ただただ清楚で朗らかだからだろう。
「少なくとも補導されて来たって訳じゃなさそだな。」
「うん…。」
「チンピラに絡まれてて保護されたとか?」
「だったら ああまで明るくしてるかなぁ?」
「だよなぁ。」
ちょっとしたナンパや威嚇されたなんて程度なら、
その場で彼女らのほうは帰すだろうし、と。
素知らぬ素振りを装いながらも、
その実、興味津々な視線を外せぬ皆様の間を
“すいません、通して通して”と
擦り抜けてやって来たお顔が一人あり。
そんな彼へ、
「あ……。」
「佐伯さんだ♪」
「あけましておめでとうございますvv」
まずはと気づいたのが、
金の綿毛を降りそそぐ陽光にけぶらせていた紅の双眸をした少女で。
そんな彼女の表情や視線を追った赤毛の少女が、
こちらへ気づいたと同時、甘い笑顔でにこりと笑い。
そんな二人と向かい合ってた、
やはり金の髪を引っつめに結っていた少女が、
順番としては最後に振り返って来、
年頭のご挨拶をしてくださったのは、まま善しとして。
「うん、おめでとう。」
こちらも律義にご挨拶を返したのは、
捜査一課の強行係にお勤めの、佐伯征樹という刑事さんで。
きりりと冴えて敏捷そうな印象の強い風貌に、
肩幅もあって背中も広いのだが、上背があるので均整が取れており。
今流の言い方で“イケメン”に十分属す男性で。
まだ“やや若手”の世代に属す彼じゃああるが、
才と根気には定評があるし、
それらに培われた確たる実績も持っており。
将来有望、されどさほど頑迷なタイプでもないままに、
誰からも抵抗なく好かれる立場に身をおいて、
やや不器用な上司の補佐に努めておいで。
そして、そんな彼だからこそのお知り合いでもある可憐な少女らを、
自身の職場にて見かけた佐伯さんにしてみれば、
やあ奇遇だねぇどうしたの…と
型通りに言うだけじゃあ済まない顔合わせでもあって。
「……で?
一体 何をしでかして、
そんな優雅な格好のまま、
此処にいるよな羽目になったのかな?」
冒頭でご紹介したような華やかさでおいでだから、
要らぬ注目をされてて…という方向で問題なんじゃあなくて。
……って、長々と白々しいですかね。
つまり、
「警視庁が“行きつけ”になってどうするね、お嬢さんたち。」
そう。
刑事さんやら職員さんやら、制服組も私服組も入り交じって、
いわゆる“警察官”の皆様が行き交う 此処は、
皇居の桜田門のすぐお向かいの角地に建つ、
警視庁内の、捜査課の集中するフロアだったりし。
たばこの匂いが染みついた煤けたお廊下だったりすることもなく、
殺気立った男衆らが、ガサ入れだ急げと駆け出すこともなく。
引っ切りなしに電話のベルが鳴っているということもなくの、
さっぱりと明るく清潔な、
至って近代的な仕様の広々としたフロアを貫く
長々とした廊下の端っこで。
そんなお堅くも恐持てな場所には不似合いすぎる
若々しいお嬢さんたちが三人も、
振り袖に紺袴という艶姿で立っていた訳であり。
「あ、ひっど〜い。」
「アタシら、何も悪いコトして此処にいるんじゃあありませんもの。」
「…、…、…。(頷、頷、頷)」
いっせいに不平を並べるお嬢さんたちなのへ、
「悪いことをしてなきゃ良いってもんじゃあなかろうに。」
単なる待ち合わせとかで
来てるんじゃあないんだろうってことくらいは百も承知。
その上で、
じゃあどういう経緯で此処にいるのか…と突き詰めりゃあ。
何かしら、犯罪行為に巻き込まれたか、飛び込んだかということになる。
そしてそして、この子たちの場合は、
「腕に自慢の、度胸もあってのこととは言え。
自分から危険に飛び込んでっちゃあいかんと、
勘兵衛様や他の皆様方から始終言われてた筈だろうが。」
伝統ある女学園の、
それも全校生憧れのマドンナたちだってのにまあまあと。
高等部に上がってからのお付き合いながら、
それだのにもかかわらず、
これまでにも数え切れない武勇伝を打ち立てている
見かけを裏切ってそりゃあおっかない女傑たちなのへ、
口元をややひん曲げ、呆れた征樹さんだったのは言うまでもなくて。
「その恰好ってことは、
最初っから荒ごとを構えてた訳じゃないんだな。」
「当たり前です。」
無地だが色合いが何とも華やかな振り袖と、
すっきりシャープなシルエットの紺袴といういで立ちは、
誰かがこっそり感慨として口にしたように、
女子大の謝恩会とか、
それだと時期が早すぎるというなら、新成人が好んで着そうな装いであり。
金髪頭に玻璃の双眸、色白な二人といい、
赤毛にキュートながらこそりと巨乳なもう一人といい、
「お正月だから、という遊びをしていただけです。」
胸の話題は相変わらず禁句だったか、
ちろんと場外を睨んで来た赤毛のお嬢様は、
ひなげしさんこと林田平八といい、
赤みの強い橙の振袖がよく映えていて。
「そうそう。ただ“追い羽根突き”をしていただけですもん。」
もんと言いつつ口許を愛らしく歪めたのが、
紫の振袖に癖のない金髪をきゅうと引っつめに結った、
白百合さんこと、草野七郎次というご令嬢で。
「…、…、…。(頷、頷、頷)」
それだのに、何か悪さをしでかしたような言われようは心外だと、
寡黙なまんま、所作と視線でものを言う、
紅ばらさんこと、三木家の久蔵様とというお三人は。
遊ぶためにとわざわざこんな恰好をしていても、
実のところ特に奇異ということはない“お育ち”をしておいでだったりし。
「シチさんのところで羽根突きを楽しんでいただけです。」
「あ、この恰好は父様のリクエストで♪」
さすが、日本画壇の大家は違うなぁと、
ほほぉと感心しかかった征樹だったのへ、
「普段着での羽根突きだと、
卓球のラリーもどきの激しい勢いになってしまうのが勿体ないって。」
「〜〜〜〜〜そ、そうなの。」
きっとバドミントンもかくやという
鋭いスマッシュ・ラッシュな打ち合いになっちゃうんですね。(笑)
そうかお家でもお転婆には違いないのねとの認識も新たに、
そうはならないようにと着ていたらしい、
和風な装いだとの説明には納得した佐伯さんだったものの、
「じゃあ、一体なんでまた。
新年早々、こんなところにいるんだね。」
NEXT→
*新春最初のお話、
やっと手をつけましたが続きます。
相変わらずな彼女らだということで。(笑)

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